5年連続で道悪での開催となった高松宮記念（GⅠ）は、香港からの遠征馬ビクターザウィナーの飛び出しで始まった。スプリンターズS2着のマッドクールがインに控え、同1着のママコチャ、シルクロードS快勝のルガルらも好位をキープ。淀短距離S勝ち馬ビッグシーザー、京阪杯とオーシャンSを連勝と勢いに乗るトウシンマカオが続き、この路線の安定勢力ナムラクレア、京都牝馬Sを差し切ったソーダズリング、1400メートル重賞連勝のウインマーベルは中団から後方に控える。

やがて馬群は4コーナーから直線へ。芝コンディションを読みながら馬場の真ん中に持ち出されたビクターザウィナーが依然として先頭。後続もほとんどがやや外寄りに進路を取る。この時、果敢に内を突いたのがマッドクールだった。

「ハナの後ろを取れればいい。直線は、朝から最内だけは残っていたのでそこを狙おう」と考えていたという鞍上・坂井瑠星騎手の、思い描いた通りの走りが実現、残り200メートルのあたりでマッドクールが抜け出す。

「スプリンターズSはハナ差負けで本当に悔しかった。リベンジしたい」と、懸命にゴールを目指す坂井騎手とマッドクール。そこへ猛然と迫ったのは、やはり内ラチ沿いに脚を伸ばしてきたナムラクレア。こちらも桜花賞3着、昨年の高松宮記念が2着、スプリンターズSは3着と惜敗を続けてきた存在だ。

1完歩ずつ差を詰めるナムラクレア。が、これをアタマ差振り切ってマッドクールが勝利をつかんだのだった。

「未勝利の頃から素質を感じていた馬で『高松宮記念を目指しましょう』と話していた」と振り返る坂井瑠星騎手。理想を現実に変えたのは、今回のレースぶりだけでない。その歩みもまた“思い描いた通り”といえるGⅠ初制覇である。

（谷川　善久）