好スタートを決めたダノンスマッシュを、クイーンC勝ち馬で3番人気のテトラドラクマが内から追い越していく。そのままペースは緩まず、最初の3ハロンは34秒4、1000メートル通過は58秒0。NHKマイルカップ（GⅠ）は息の入らないラップで流れた。

やがて直線。先行勢の間を割ってきたのは2番人気のギベオンだ。1800メートルのデビュー戦、2000メートルの500万下を連勝し、前走は毎日杯2着。中距離で培ってきたバテない末脚で粘り込みを図る。強敵と目された1番人気タワーオブロンドンは、朝日杯フューチュリティS3着、アーリントンC快勝など、素晴らしい実績の原動力となった鋭い決め手を、馬群に包まれて繰り出せないでいた。

ファルコンS1着馬ミスターメロディとの追い比べを制したギベオンの目前にゴールが迫る。そこへ外から一気に飛んできたのがケイアイノーテックだ。

鞍上・藤岡佑介騎手は「思ったよりも行き脚がつかなかった」と振り返る。何度か手綱を押し出したもののケイアイノーテックのピッチは上がらず、結局「腹をくくった」と後ろから2番手の位置で折り合いに専念。これが奏功、ハイペースに消耗することなくコーナーを回り切り、溜め込んだパワーを力強いラストスパートに直結させることが可能となったのだった。中団にいたレッドヴェイロンと並んで伸びて、一完歩ずつ着実に前の馬たちをかわしていくケイアイノーテック。とうとう最後にギベオンを捕らえ、クビの差だけかわして1着ゴールを果たしたのである。人馬ともに嬉しいGⅠ初制覇だ。

ケイアイノーテックはここまでマイル戦ばかり走って、デイリー杯2歳S3着、朝日杯フューチュリティS4着、ニュージーランドT2着と、重賞タイトルはつかめなかったものの堅実な末脚を見せてきた。その安定感に加え、この日は「最後は気力で出てくれた」と藤岡騎手が讃えるほどの底力も発揮して、3歳マイル王に輝いたのだった。

（谷川　善久）